でも彼はただの迷子ではなく、
そもそも彼はただのゴールデンレトリバーではなく。
知念実希人著『優しい死神の飼い方』
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著者の知念実希人(ちねんみきと)は現役の内科医。
死んだ人間の魂を「我が主(あるじ)様」のもとへ導くこと。
魂となった人間の回収係、道案内が役目の「死神」の私は、
ゴールデンレトリバーの姿に変えられ、地上に派遣される。
看護師の朝比奈菜穂に保護された「私」は
レオと名付けられホスピス「丘の上病院」に住むことに。
古い三階建ての洋館を改装した「丘の上病院」には
死神が「腐臭」と呼ぶ甘ったるい、果実を腐らせたような匂い、
この世への未練に縛れられる四人分の「腐臭」が漂っていた。
この洋館では7年前に未解決の殺人事件があり、
また裏庭には人生に強い未練を持って死に、
地上にとどまる人間たちが「自爆霊」と呼ぶ魂が三つあった。
『プロローグ』『第1章 死神、初仕事にとりかかる』
『第2章 死神、殺人事件を解明する』『第3章 死神、芸術を語る』
『第4章 死神、愛を語る』『第5章 死神、街におりる』
『第6章 死神、絶体絶命』『第7章 死神のメリークリスマス』
『エピローグ』からなる本作品。
ホスピスが舞台ということでしたので、
(著者が内科医だということは後で知ったのですが)、
終末医療を扱ったものかと思っていましたし、
実際、終末期を迎えた患者の過去と心情などが描かれていますが、
長編ミステリーでした。
主人公は「私は」と一人称で語る「死神」のレオ。
「死神」は高貴な霊的存在だけあって、
・・・高貴な霊的存在だからか、やたらに上から目線。
下賎な存在の人間たちに毒舌でシニカルに物言う(?)「死神」は、
幸か不幸か今は普通のゴールデンレトリバー。
美味しい食べ物(特にしゅうくりいむ)の前では
見事にパブロフの犬状態。
高い高いプライドと裏腹な尻尾(苦笑)。
侘び寂びを愛し舶来文化を毛嫌いするだけあって、
"ごおるでんれとりばあ" "だうんじゃけと" "どっくふうど"、
"びすけえと" "なあすすていしょん"・・・。
まあ、「死神」の同僚の影響もあるわよねぇ。
吸血鬼一家の正体(と理由)は容易に想像できる。
終戦間近の南竜夫と檜山葉子、バブル崩壊後の孫潔こと金村安司、
7年前の内海直樹、そして現代までの物語と謎が
綺麗に回収される手腕はお見事。
ただレオ自身が思うように
"3人の男たちの未練を解決してゆく中で、
複雑に絡まった真実が解けていき、
7年前の事件の真相が明らかになっていった。
そして4人の魂とあの三つの魂までもが救われる"のは
やっぱり上手くいき過ぎの印象も。
何せ7年前の事件のことが語られた途端、
当の本人が登場し、例のダイヤが再登場。
・・・やっぱり上手くいき過ぎ(苦笑)。
何より4人目の「腐臭」にたどり着くまでに・・・、
優秀な道案内なのにレオって鈍過ぎ(苦笑)。
でもそんなレオの言葉や思考が可笑しくてちょっと愛おしい。
だからこそエピローグがほんわりじんわり。
『「我が主様」の御心のままに。』
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