早咲きの桜の精。
宮部みゆき著『桜ほうさら』
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先に読んでしまったこちら・・・ドラマ化するんですってね。
深川北永堀町・富勘長屋に住む古橋笙之介は
貸本屋・村田屋の筆耕(写本)で活計(たつき/生活費)を得、
半年が経つ。
古橋家は上総国搗根藩で小納戸役の家柄だが、
当主で笙之介の父の古橋宗左右衛門に、
突如、御用達の道具屋からの賄賂疑惑が持ち上がる。
頑なに否定する宗左右衛門だったが、
己の手跡の受け渡し等の文書を突きつけられ、
罪を認めざるを得なかった。
閉門蟄居から三日目、古橋宗左右衛門が自邸の庭先で腹を切り、
兄の勝之介が介錯をした・・・無様だと言い捨てて。
母・里江に疎まれて育った笙之介だが、
兄・勝之介の行く末に期待を寄せる母の意を汲み、江戸に出立、
江戸留守居役・坂崎重秀に目通りする。
ある日、村田屋治兵衛が江戸随一の料理屋・八百善が出した料理本と、
八百善の"起こし絵"を持ち込んでくる。
『富勘長屋』『三八野愛郷録』『拐かし』『桜ほうさら』の四編。
表題作『桜ほうさら』は甲州弁の"ささらほうさら"は
"あれこれいろんなことがあって大変だ"という意味を掛けています。
この"ささらほうさら"は『パーフェクト・ブルー』でも登場しているので、
昔からの宮部ファンには懐かしい言葉です。
で、本編。
東谷(とうこく)様こと江戸詰留守居役・坂崎重秀が語る搗根藩。
正室・側室の跡目争いやら家老がどっち派やらと
とにかくややこしくて難解でこんなの覚えられない!と思いきや、
ちゃんと相関図が出てきてひと安心、ふた安心(苦笑)。
(でもこれは最終章の『桜ほうさら』まで登場しないのよねぇ。)
古橋笙之介がおっとりした気性や彼の周囲の人々の温かさも相まって、
物語はゆっくりほんわか進んでいくのですが、
描かれていくのは小藩の悲哀や飢餓、
愛する者を喪った人の後悔や悔いなど結構シビア。
そして笙之介の父の一件の真相は何とも救いがなくて・・・。
例え庭先に降りるような縁談であっても
穏やかに暮らすこともできたでしょうに、
こんなはずじゃなかったという想いや欲や野心が生み出す不幸。
宗左右衛門はどんな思いで亡くなったのかと思うと
気の毒でやり切れませんでした。
それにしてもまっすぐな気性でどう見ても商いに不向きな笙之介じゃ
和田屋の婿にはなれそうもない。
和香をそえに仕込んでもらう・・・おつたが黙っていないしねぇ(苦笑)。
「嘘というものは、釣り針に似ている。
釣り針の先には返しがついていて、一度引っかかったらなかなか抜けない。
それでも抜こうと思うと、さらに深く人を傷つけ、己の心も抉ってしまう。
だからつまらぬことで嘘をついてはいけない。
嘘は、一生つきとおそうと覚悟を決めたときだけにしておきなさい。」
「そなたの父が真に望むことはどちらであろう。」
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